「位置について、よーい…パンッ!」
合図を聞くと同時に一気に飛び出した。
風が私を包み込む。
でも50mなんてあっという間。
気が付いたら白いゴールテープを切っていた。
「な、なんと!またしても1位は赤!
しかもこれは2位にかなり差をつけてきた!
今年の赤は強いぞ!」
わあぁ!と沸く赤組の応援席。
どうやら無事1位になれたようだ。
この調子で残りも頑張ろう。
ーーーーー
応援席に戻ると、桃が抱き着いてきた。
「おかえりー!」
「ちょ…離してって。」
「やだ。…グスン」
え、まさか泣いてる…?
「桃…泣いてる?」
「泣いてない!
うぅ…夏美の走りが久しぶりに見れて嬉しいからって泣いてないんだからぁ!!」
…親友からの思わぬ一言に目を見開いた。
泣くほど嬉しいのか…。
まぁ、陸上部をやめた頃、桃には迷惑たくさんかけたもんな。
「…ありがとね。
無理矢理体育祭に参加させてくれて。
おかげでいいもの見れた。」
いまだに抱き着いたままの桃の頭をポンポンすると
「一言余計なのよ…グス」
とか細い声が聞こえてきた。
私は聞こえないフリをして、しばらくコアラのように抱き着いてるこの子をあやしていた。

