「海の上から見守る花火って、どんななんだろう」
頭に浮かんだ疑問を口にした。
波留は、もしかしたら花火なんか見ていないかもしれない。
視線はいつも点火口ばかりを見て、夜空に開く花たちを眺める暇もないのかもしれない。
一瞬も気が抜けない。
そんな仕事をしているんだ。
(強い人だな)
ふ…と、そんなふうに思った。
澄良への思いを胸にしまったまま、誰にも言わず隠し通そうとしている。
友情には代わらないものがあると知ってても、相手を想い続けている。
そんな想いが、私と航の中にあっただろうか……。
夜空を焦がす花火のように、一時的な思いだけではなかったか………。
「私……」
溜息を漏らすような声が、唇の先から出てきた。
「悪いけど……用事思い出したから………」
手にしていた雑巾を置く。
「ごめん。途中だけど……ちょっと行ってくる……!」
身に付けていたエプロンと三角巾を取り外した。
それらをテーブルに置き去り、テントの外へと走りだす。
人波とは逆方向へ向かう胸の中で、いたたまれない気持ちが駆け巡る。
露店の軒が切れ、人々が少なくなる。
花火を背にした場所で、さっきと同じ服装をした人を見つけたーーー。
何処を見るでもなく、ぼんやり…としている。
見るからに悩んでいるふうはない。
でも、明らかに前に進んでるようにも見えない……。

