波留は海斗さんの同級生だ。
付き合いがあるから当たり前なのかもしれないけど…どうして彼の好みだけ知っているんだろう。

「…夕夏は?ワサビと生姜、どっち付ける?」

チューブを持ち、目の前にかざされた。

「…ワサビ」

食欲がないからわざと嫌いな方を指定した。
辛味のせいで食べれない…そう言うつもりだった。


お刺身は美味しかった。
普段なら食べれない朝も、刺身だけはパクパク食べれた。

でも、問題はこの白米。

避けてたワサビを醤油の浸み込んだ中へ混ぜ込む。
つぅーんとニオイが立つ。
嫌いだから、案の定、箸が進まない。

のろりのろり…と食べ進める。
その様子を波留に茶化された。

「ネコは魚だけしか食わんのか⁉︎ 人間なら飯食え!食わんと力も出ん!」

またしてもネコ扱いする人を睨んだ。
彼の器の中には2杯目のご飯と刺身が乗っていた。

「ネコは繊細なんよ!朝からがっつり食べれるおサルさんとは違うんやから!」

アカンベーしながら反対を向いた。
寄り添うように食事をしている、澄良と海斗さんの姿が見に入る。


結婚して半年しか経たない二人は仲睦まじくて羨ましい。
熱々な頃の自分と航のように、2人だけの世界がそこにあるみたいだ。


……虚しくなって向きを変える。
目の中に飛び込んでくる親子。

あの子が死なずにいたら、私達にもあんな未来が待っていたのだろうか。


(分からない……想像できない……)


生まれることも叶わなかった命と暮らすこと……
それはある意味、夢物語でしかない……。


……昨夜と同じような虚しさを感じる。

この頃の自分はおかしい。
どうかしている……。