…だから、キミを追いかけて

「夕夏……」


心配そうな顔が見える。

電球の眩しさを後頭部で受け、女性が顔を覗き込んでいる。 
垂れ下がっているサイドの髪を耳にかけ、それから声を発した。

「大丈夫…?気分はどう…?」

まるで、あの時の看護師のように聞いてくる。

変わらない記憶を掘り起こさないで欲しい。
二度と…思い出したくない……。


「大丈夫…どうもない…」

そ…と目を伏せた。
さっきまでの激しい頭痛は治まっていた。
吐き気もなくなり、目眩もしなかった……。

「良かった…早く横になって正解やったね…」

澄良が自分ん家に運んだ…と話す。


うっすらと開けた視線の先に、見慣れない部屋の景色が広がる。
テレビの横に並ぶフォトフレーム。
幸せの瞬間を収めたものが、幾つも飾られていた…。

「……ここに運んだの誰?清良の旦那さん?」

念のため確かめた。担いで来たのだとしたら、きっと重かったに違いない。

「海斗さんじゃないよ。あの人達はダメ。見かけによらず力ないから!」
「…じゃあ、誰が…?」

目をしっかり開けて聞くと、清良はおどけたような表情を浮かべた。


「あのね……波留!」

ーー名前を聞いて驚いた。

吐き気を感じて気を失いかけた時、誰かに支えられたような感覚があった。

…力強そうな腕だった。一瞬だけど、航を思い出した……。