…だから、キミを追いかけて

この世に生まれ出た命が尊い…と、私が思い知っていたからーーー


「帆崇、あの姉ちゃんとこに行ったって!可愛がってくれるよ!」

余計な一言を澄良が言う。
親達からも勧められ、少年はおずおずと私の側にやって来た。

「ほら、抱っこ!」

ひょいっと体を持ち上げ、澄良が私の膝上に乗せる。
ゴツッとしたお尻の骨が太腿を刺激する。
骨っぽい体の感触は、この子が男の子だということを教えてくれた。


(いい匂い……可愛い……)

初めて抱く子供の感触に心がときめく。
自分の子供でもないのに、妙に嬉しい気持ちになる。

でも、同時に激しい虚しさにも襲われた……


(まずい…!泣きそう……!)


箍が外れる。
気持ちが崩れそうになり、慌てて帆崇君を下ろした。


「ごめっ……!ちょっとトイレ行きたいっ!」


席を立って走る。
店の外はいつの間にか雨になっている。

その中を駆け出して、自分の車へと走り込んだ。



ーーードアを閉めると同時に、激しく嗚咽する。
メイクが落ちるのもお構いなく、涙が溢れ出てくる。



あの日……

手術をしたあの日でも、これだけの涙は出てこなかった……。



(なのに……何で今更こんなに泣くんよ……!)



後悔せずに生きようと決めたのに…。
だから、戻ってきたのに……。



(辛くなることばっかで………本当に嫌んなる………!)