「飲めねーなら、無理すんな!吐かれてもメーワクだっ!」

目の前の人が乱暴そうに言葉を吐いた。
グラスを手にしまま、私が一向に飲もうとしてないのを見ていたらしい。

「の…飲めるわ!」

喧しいな…という態度で口をつけた。
苦味と一緒に、柔らかな甘みとコクが口腔内に広がっていく。
生ビールの1番美味しいところを、ゆっくりと飲み干した。


「おっ!いい飲みっぷり!もう一杯いこう!」

今度は海斗さんが注ぐ。
溢れそうになる泡に口をつけ、フワン…とした気分になってきた。


「今までのは演技かよ」

フリなんかすんな…と呟く。
いちいち突っ掛かる物言いに、プチッと切れてしまった。


「喧しいな!黙ってなよ、サル!」

この間の呼び方のまま言った。
向こうも同じ。進化したままの呼び方だった。

「野良ネコだからって、スグにキレんな!」
「うっさい!私はネコじゃない!人間!!」
「それを言うならこっちだって人間や!!」

お互い酒臭い息をぶつけ合って怒鳴る。
何があったのか知らない人達はポカン…とした表情で、私達の口論を聞いていた。



「なんか知らんけど…仲良いなー!お前ら!」

海斗さんが吹き出した。

「冗談じゃねー!」
「誰がこんなのと!」

振り返って拒否する。
その視界の中に、クスクスと笑う澄良の姿があった。

「波留を誘とって良かったー!夕夏はちょっと人見知りなとこがあるけぇ、心配しとったんよね……」