…だから、キミを追いかけて

小一時間ほど澄良の店で過ごした。
15時近くになり、澄良とはまた話そう…と言って別れた。


車に乗り込み、家へと向かう。
橋の中間地点では、相変わらず他県ナンバーの車が停まっている。
楽しそうに写真を撮り合うカップルを尻目に、何も考えないように通り過ぎる。

橋を渡り、国道へと続くT字路を左折する。
道路の高台に建てられたレストランからは次々と車が降りてくる。
『地元の食材を使わない店』として有名なんだ…と、祖母が話していた。
田舎の食材は高い。…そう思われているみたいだった。

『島の者と言い、都会もんの建てたレストランと言い、町にとっては潤わないもんばっかだよ…』

呆れるような口調を祖母はしていた。
母はその言葉を黙って聞き流していた。

「都会もん」と呼ばれた父と結婚して別れた母。
その母と同じく、都会生まれの航と付き合っていた私……。


6年もの間、田舎から逃げていた。 
家族にも嘘をつき、都会に住み続けた。
航と一緒に暮らしているのがバレないよう、カモフラージュの部屋まで借りて誤魔化した。

家族が上京してくることは殆どなかったけれど、あの時だけは部屋を借りていて正解だったと思った。



入院している間、祖母がその部屋を使った。
狭いワンルームのアパートが、最初で最後、役に立ったーーー。