スーパームーンの夜は、良く晴れていた。

薄い霞がかかった様な夜空に、星は一つも見えない。


「何でやろ…。こんなに天気いいのに……」

呟きながら、月が顔を出すのを待つ。


午後8時。

時間通りに灯台の下には来たけれど、肝心の月が昇らない。昇る前に灯台に上れば、『縁切り』の効果がすぐに発動される。

…そう脅す波留に眉間をひそめて、「私はそれでもいいけど…」と強がった。


波留と縁が切れても、何処かで繋がっていそうな気がする。
そういう意味で言ったのにーーー


「俺はそういうのは嫌や!縁切りとか縁起でもない!一生会えんでもいい相手なんか、この世には居らん!」

消防士という仕事柄のせいか、ライフセーバーという役目も担ってるからなのか、波留には、自分なりの考えがあるらしい。


「でも……縁のない人…って、実際居るんよ……」


嫌なことを思い出した。

お腹の中で、消えていった命ーーーーーその子とは、縁がなかった。

生まれてきたら、不幸になっていたかもしれないけど、そうじゃなかったかもしれない。

何も分からない。生まれてくるまではーーーーー



自分の腹部を眺める私に、波留が小さな溜息をつく。
膝を折り曲げている姿勢から立ち上がり、灯台の外壁に凭れた。

さっきから同じ格好でいる私の横で、月が昇ってくる山際を見上げた。