…だから、キミを追いかけて

「何もないよ。昨日働き過ぎたから、少し疲れてるんやない?」

此処へ帰ってきてからずっと仕事もしてなかった。久しぶりに働いて、疲れてはいる。


砂浜に組み上げられた砂止めブロックの上に座った。
静かに打ち寄せる波を見つめる。
この波のように、もう一度誰かと、生き直せるだろうかーー。


「……海はいいよね…変わらなくて…」

時の止まっているような感覚。
この町に帰って来てからずっとそう思っていた。

「何や?いきなり」

波留が隣に来て座る。


「うん。なんかいいな…と思って。波留のように変わらないと口に出せる思いも、この海と同じように変わらない町も。私は今日まで、何を見てたんやろう……」

逃げ出すことばかりを考えていた。
留まることなんて、考えたこともなかった。


「……故郷は…こんなにもきれいなのに……」

改まって口にする。
今、ようやくその良さに気づいた。


「さっきから何や。訳分からん。お前、やっぱ今日変やぞ⁉︎ 」

「うん…変かも…」

今日から独りで生きると決めたし、この町で……。

「なんか知らんけど、故郷の良さに気づいたんなら俺に付き合え!もっといいとこ連れてったるわ!」

「えっ⁉︎ 波留に⁉︎ やだ」

「やだって何や!人が折角デートに誘っとんのに!」

「デート⁉︎ ますますやだ!」

なんか裏がありそう。どうしたの?急に……

「ええから付き合え!面白いとこ連れてったるから!」
「面白いとこ?」

こんな田舎町にそんな場所あった⁉︎

「1時間後に橋の袂で落ち合おうや!髪なんか巻いてくんなよ!田舎もんなんやから!」


……言い逃げ⁉︎

走り去ったーーー。