微笑まない。お愛想も、おべんちゃらも言わない。だけど意地悪ではないし、自分にも他人にもきつくあたることがない。何と言うか、非常に安定したバランスの持ち主なのだ。面白みは全くないが、嫌味も同じくない、というか。

 少しずつだけど、確実に、彼は私の心に沁みこみ、ガーベラの花びらのような鮮やかな形を残して行った。

 たまにこっそりと見詰める。その歩いていくまっすぐな背中に手を伸ばしかけて諦める、ということを何回もしてしまった。

 ・・・やーばーい。やばいよ、私。

 本当にこりゃ一体どうしたもんだ。例えて言うなら中学1年生の初恋状態だ。どうしていいのか判らないって感じ。

 しかも!何と私達はすでに結婚しているの。結婚だよ結婚!触れない相手と!うお~!

 おでこをパチンと叩く。もう~、やり切れないんだよ、畜生!ベッドに誘うって、あんな興味なさげな相手をどうやって誘導したらいいの?

 「カモーン、ハニー」なんてふざけて言おうものならスルーされそうで後に残された自分が恥かしくて可哀想だし、直接的に「エッチしよう!」と言ってみれば、面倒臭い、と返されそうで、切れてヤツをぼこぼこにする自分が想像出来る。

 7月はそんな感じで一人悶絶状態を繰り返し、夏の暑さもあってバテバテな私だった。

 後3日で、私は33歳になってしまう。心象風景は気温50度の砂漠の荒野、その真ん中で私は一人で干からびて倒れていた。


 ・・・水を、くれ。