落ち着け落ち着け。自分に言い聞かせる。ここは太平洋の真ん中で、私はそこでゆったりと浮かぶ小船なのだ!波はキラキラしていて穏やか、私は波に揺れながらただ悠々と漂っている。それを想像するのよ!
大根を切る、出汁で煮る、ほうれん草をゆがく、胡麻で和える、豚とキャベツを焼いて―――――
料理に集中している間に落ち着いてきた。一心に晩ご飯の準備をしていく。
ようやく自分でも普段通りに戻れた、良かった、と思った頃、後ろから声が聞こえた。
「・・・その格好」
びくんと手が震えた。包丁がカタンと音を立てる。
え?ええ!?格好・・・私の格好!?何だ何だ?何かに気付いたのか!?
「え?」
何でもないことのように振り返る。声が裏返りそうで緊張が増した。
春から梅雨だった今まではなかった露出した格好。太ももから腕から出ている。髪もあげてうなじには後れ毛が一房垂れているように作ってきた。私は色白なほうだし、もしかして――――――
色気が出てるかもって期待に、心臓が大きく一度鳴った。妄想世界ではいきなり風が出てきて、私の小船がぐいんぐいん進みだしたところ。
テーブルについて肘をつき、手の上に顎を乗っけた状態でダレダレ~っと、ヤツは言った。
「うちのばあちゃんと一緒だ」
「・・・はい?」
「ばあちゃんが、夏場によくそんな格好で台所に立ってた」
ぐいいいい~んと進みだした小船は突如現れた岩場に正面から突っ込む。ぎゃあ!目を瞑る!クラーッシュ!!


