私は右手をぶらぶらと顔の前で振って、ぶっきらぼうに言った。

「一緒に歩いているのに一人の気分よ。私の可哀想な手が寒いって言ってるわ」

 ヤツは呆れた顔をした。微かに首を振って、ため息をついた後でやれやれと呟きながら前を向いた。

 私がヤツの背中を見ていると、前を向いて立ったままでポケットから左手を出して、握っては開く、を繰り返した。


 ――――――――おいで。


 声が聞こえた気がして思わず微笑む。

 私は笑顔で近づいていき、ヤツの指に自分の指を絡めた。そして引っ張って、一緒に歩き出す。

 横顔を盗み見ると、ヤツの視線は前を向いたままだったけど口元がゆるんでいるのが判った。

 うくく、とつい笑い声が漏れてしまう。いけない、また呆れた顔で見られる前に、笑い声を止めなくちゃ。

 でもこんな、楽しいことって滅多にないよね。

 やっぱり笑うのを止められないままで、駅まで歩いた。二人で、一緒に。

 プリズムが煌く秋の空を見上げる。

 風が通り抜ける。私は目を細める。


 そしてぺろりと舌を出してみせた。


 ・・・・やるじゃん、神様!





「鉢植右から3番目」完。