「・・・・」

「ダメ、行くの」

 ヤツはうんざりした顔をむけたけど、無言の拒否は手を振って瞬殺した。

「・・・・必要、ない」

「私にこれから毎日指輪指輪と言われ続けるのと、今日一度我慢して言われた通りにするのとどっちがいいか選んで」

「・・・・」

 暫くの沈黙の後、はいはい、と小さく呟いて、ヤツはゆらりと立ち上がる。

 うん、人間諦めが肝心よね。私はにっこりと頷いた。

 秋の風が空高くを吹き抜ける。髪が舞い上がって、ついでに体も浮かびそうな感じがした。

 前をスタスタと歩いていくヤツの背中を見詰める。

 もう、あの男はどうしてああも非ロマンチックなのだ。夜の時間とえらく態度が違うじゃないのよ。

 あーあ、可哀想な私のお手手・・・。

 折角そんなに暑くなくなったのに。

 しばらくして私がついて来ていないのに気がついたらしいヤツが振り返った。

「どうした?」

 下から膨れっ面で睨みつける。

 ヤツはまた表情に疑問符を貼り付けてこっちをじっと見た。