口元に笑みをうっすらと貼り付けて、私は頷く。
「懐かしかったねー、お仕事頑張ってね」
ここは俺が、という彼を笑顔で振り切って、会計は別々にしてもらった。
店を出て、駅に向かうんだろう坂田君を見送ろうと立ち止まると、日に焼けた顔をほころばして彼が言った。
「あの――――――兼田、今度は晩ご飯に行かないか?」
「え?」
なぜ、今更君と。そう思ってしまった。
確かに懐かしかったけどそれは十分堪能したし、元彼のその後も判った。もう会わないと思っていた。それくらいの付き合いであると。
私が首を傾げたのを見て、坂田君が一歩近づいた。
「・・・今、彼氏いるのか?」
―――――――彼氏?
「いないけど・・・」
嘘じゃあないぞ。するっと答えてしまったけど、彼氏はいない。
夕焼けが辺りを満たす真夏の夕方、駅前の広い道に突っ立って、元同僚の彼は少しの笑顔で言った。
「じゃあ飯、行かないか?俺はもう一度兼田に会いたい」
思わず目を見開いた。そして頭の中で復唱する。・・・会いたい?
ほとんど同じ身長で人懐っこい愛嬌のある坂田君。
背が高くてスタスタ歩くのに、居るのか居ないのか判らないくらいに存在感のないあの男。
気が利いて、周囲を笑わせて楽しませるのが好きな坂田君。
基本的に個人行動で、暇さえあれば寝ている面倒臭がり屋のあの男。
色んな場面の、色んな言葉。その全部が、目の前で笑う坂田君の方が好印象だった。


