「あっ、あのっ!」
チョコレートを選ぶ近藤さんが、弾けるように声をかけた私を見る。
二重の瞳に色素の薄い茶色の髪の毛。
違うよね?
まさかだよね?
だけど。
でも。
「近藤さんっ」
呼んだ名前に力が入る。
そんな私の態度に、近藤さんは少しだけ驚いた顔。
でも、そんな事構っている余裕なんかなくて、私は確かめたい事だけに必死だった。
「名前っ。近藤さんの下の名前って何ですか?」
食らいつくような態度で質問したのに、さっきまで驚いていた顔を冷静にして、近藤さんが口を開いた。
その表情は、とても優しく穏やかで。
いつかのあの日を思い出す。
「紗南ちゃんは、今も可愛いからピンク色ね」
そういって手のひらに渡された、ピンク色のマーブルチョコレート。
訊いた答えじゃないのに、それだけで充分だった。
「……健ちゃん」
水面のキラキラが、マーブルチョコレートのキラキラを更に輝かせる。
カラフルなチョコレートは、淡く甘酸っぱい想い出をまた輝かせて彩っていく。
「また、逢えてよかった」
渡されたピンク色のチョコレート。
苺の味なんてしないのは、今も昔も知っている。
だけど甘酸っぱいその色は、忘れられない想い出を今目の前に連れてきた。