土曜日の水族館は、家族連れやカップルで結構な混み具合だった。
アジの大群や大きなカニに、ややこしい名前の見たことのない魚。。
浮遊するように泳ぐ幻想的なたくさんのクラゲに、見られていることに慣れすぎているシロクマ。
館内を走り回り、歓喜の声を上げる子供達も一緒に眺めながら、これといった会話もなく私たちはのんびりとたくさんの魚たちを見て回った。

「少し座りますか?」

恭子が合コンと交換条件で私に紹介してくれた彼が、ある程度見て回ったところで気遣いを見せてくれる。

近藤さん、と言うらしい。
待ち合わせ場所で初めて逢った時に、そう名乗っていた。

下の名前は、なんだろう?

少しだけそんな風に思ったけれど、訊ねるほどの興味をまだ私は彼に持っていない。

「今日は、無理を言ってすみませんでした」

館内にあるティールームでコーヒーを飲みながら、目の前に座る近藤さんが少しだけ申し訳なさそうに頭を下げる。
いえいえ、とんでもない。というように私はふるふると首を振った。

「水族館なんて、少し子供じみてるかなと思ったんですけど」

伺うように私を見る近藤さんは、まるで親の機嫌を探るような幼い子供みたいで、謙虚さに好感が持てた。

「水族館は久しぶりだし、楽しいですよ。あ、マンボウ、すごく大きかったですね」

にこやかに言ってみたけれど、当たり障りのない会話はあまり弾まずで少し気まずい。
ティールームのそばにあるお土産屋さんは盛況で、子供たちの声が小高くひっきりなしに聞こえてくる。
そんな風に周囲の喧騒は賑やかなのに、ここのテーブルだけは会話が弾まず、降りた沈黙に少し辛くなる。

手持ち無沙汰のように、珈琲を一口。
口内に広がる苦味を感じながら視線を上げると、目の前に座る近藤さんも沈黙が辛いのか珈琲に手を伸ばしていた。

館内のティールームには窓がなく。
アクアリウムの向こう側で戯れる魚たちを眺めながらの飲食だった。
近藤さんのサラサラした髪の毛が、ティールームのライトを受けて茶色くなっている。

そういえば、健ちゃんも色素の薄い髪をしてたっけ。
二重の瞳が印象的で、一重の私は健ちゃんのその目に憧れていたんだよね。
そういえば、近藤さんも二重だ。
いいなぁ。