「想い出もいいけどさ。今に目を向ける方が堅実だと思うんだけど」

恭子はプリンとお茶を手にして、現実に興味を持たない私の事を複雑な表情で見る。

確かにそれはそうだと思う。
思うんだけど、想い出というのは厄介なもので。
やたらと年々美化されていき、今では眩しすぎて現実の方がくすんでしまうほどなんだ。

コンビニから出ると、冬の寒さを混ぜ込んだ秋風が容赦なく冷気を運んできた。

「寒くなってきたね~」

スーツの上に羽織ってきたカーディガンの袖に、自らの手を隠すように引っ込める。

「寒いと、人恋しくならない?」

恭子はコンビニの袋をブラブラさせながら、寒そうに地面に零す。

「そりゃあ、まーね」

これは何の振り? なんて、恭子を見ながら私は苦笑い。

「うちの部署によく来てる営業君が、紗南のことを紹介して欲しいって。結構、男前よ」

ああ、そういうこと。

恭子は、どうどう? なんて、弾むようにその営業君を勧める。
まるで、自分の方が誘われているみたいなはしゃぎようだ。

「営業君ねぇ……」

私が気乗りしない返事をすると、会うだけ会ってよ。
なんて、少し強引な態度。
これは何かあるな。

「もしかして、交換条件とかあったりする?」

確信的な視線で訊ねると、ドキっ、とあえて声に出す恭子。
隠し通さないところが素直だよね。

「紗南を紹介したら、合コンセッティングしてくれるっていうからさ~」

そういうことね。

私は正直すぎる仲の良い同僚に、思わずプっと吹き出し笑ってしまった。

「人恋しい季節が目の前なんだよぉ。寂しい私に愛の手を」

冗談めかしてお願いしているけれど、合コンはついでで、きっと私のことを心配してくれてるんだろうな。
いつも想い出に浸ってばかりいる私。
その相手をしてくれる恭子が勧めてくれるなら仕方ないか。

結局、拝み倒された私は、後日その人と会うことになった。