「あ。それ買うの久しぶりじゃない?」

ランチ後、会社へ戻る前に寄ったコンビニで、私はリング状になったカラフルなお菓子を手にしていた。
他には、ミルクティーとスティックタイプのチーズケーキ。
小腹が空いた時用だ。

「また思い出しちゃったんだ?」

笑みを浮かべる付き合いの長い同僚の恭子に、私は少しの苦笑い。

それは、遠い昔のささやかな想い出。
僅かな輝きと淡い色をのせた記憶が、今も私の心を疼かせる。




いつも凛と背筋を伸ばしていた彼は、うちのテーブルに着くと私に笑顔を見せる。

「お母さんには、リンゴの赤。お父さんには抹茶の緑」

彼はハニカミながら、プチンと銀紙の奥から一粒ずつそれを取り出してテーブルに置いていった。
それから満面の笑顔で私に言ったんだ。

「紗南ちゃんには、苺のピンク。紗南ちゃんと一緒の可愛い色だよ」

キラキラに輝くリングの中から取り出された、ピンク色したマーブルチョコレート。
リンゴの味も抹茶の味も、まして苺の味などするわけじゃない。
ただカラフルにコーティングされただけのチョコレートだったけれど、彼が私にくれたピンク色のマーブルチョコレートは、私にとって甘酸っぱい苺味でしかなかった。


近所に住む健ちゃんはとても快活で、なのにとても穏やかな一面もあり、いつも私に優しくしてくれていた。
私は、健ちゃんと遊ぶ学校帰りの放課後の時間が、何より好きで楽しみだった。

健ちゃんのママはいつも帰りが遅い。
だから健ちゃんはランドセルを家に置いてくると、ママが用意してくれていたおやつを持って私の家に来ていた。
そうして、健ちゃんのママが帰ってくるまでの間、私と一緒に過ごしていたんだ。
その時間は、今でも私の宝物だった。