その手が暖かくて、優しくて

勝弥が、その廃工場に着くと、外には見張りらしい数人がいた。おそらく、ここで間違いない。

相手に気づかれないように、まず、門の辺りにいた見張り２人を一瞬で倒した勝弥は廃工場の建物に近づいて行った。

建物の周囲を回り、入口を探していると、ひとつ扉があり、その前にも２人の見張り役らしい男がいた。

（あれか…）

その２人を声もたてさせずに倒した勝弥は扉のノブに手をかけた。
錆びで、すっかり固くなってしまっている入口の扉を開けると、ギィィ…と音が鳴った。
建物のなかは油の匂いに混ざって、金属が錆びた匂いがする。

奥の方へ目を向けると、わずかな廃材と置かれたままとなっていた機械が見え、その手前の広くなっているところに誰かいる。
その話し声が勝弥の耳に届いた。

「何やってんすか？日下先輩、あんまり声や音とか出さないほうがいいっすよ」

「ああ…そうだな」

そこには椅子に縛られた亜里沙と、その周りには６人の男がいた。

「亜里沙！」

勝弥に名前を呼ばれて、亜里沙が顔を上げると、既に勝弥は３人殴り倒して亜里沙の側まで来ていた。

「大丈夫か？」そう尋ねた勝弥は亜里沙のぶたれて赤くなった頬と、涙の跡を見た。

勝弥の表情が変わる。

光也たちは、いきなりやって来た男が目の前で、一瞬にして３人を殴り倒したのを見て、固まったまま亜里沙と勝弥を見守っていた。

「てめえら…」

勝弥がゆっくり振り返る。




「てめえらぁ！何してくれてんだぁ！」

怒りに身を任せ、勝弥は拉致犯たちをボコボコに痛めつけた。
やがて、落ち着きを取りもどすと亜里沙に駆け寄り、彼女を拘束していた縄を解いた。

「ありがとう。真鍋君」

「いや…いいよ…」

照れくさくなった勝弥は思わず下を向いてしまった。

「さぁ！帰るぞ！」

「うん」そう言って椅子から立ち上がろうとした亜里沙だったが、「痛っ！」
そう言って、しゃがんでしまった。

「どうした？」

「最初に、こいつらから逃れようとしたときに足をひねっちゃったみたい」

「何ぃ～！」
既にぐったりと倒れている拉致犯たちを、さらにボコろうとする勝弥に

「真鍋君！もういいから！」
さすがに亜里沙が止めた。

「だいぶ…痛いのか？」そう尋ねる勝弥に

「うん…ちょっと…でも、たぶんひねっただけだから大丈夫」

そう答える亜里沙の前に勝弥は背中を向けて低くしゃがんだ。
「いいから！俺におぶされ！」

「でも…」少し躊躇した亜里沙だったが、促されるまま勝弥におぶさった。

「さぁ、帰ろう」亜里沙をおぶった勝弥は、ゆっくり立ち上がった。