豊玉恋物語


「ほらここだ、多少来ずらいが、絶対に誰もこねぇ」

ここは俺の家の裏にある小高い山の奥にある俺の隠れ家。

ここに来る為には厳重に隠された通り穴を通らなきゃ入れねぇんだ。
小柄な奴しか入れないそこは絶対にばれない自信がある。

そして小道を抜けた先には少し開けた大きな木々に囲まれた空間があらわれる。

木々の隙間から光がいい具合に差し込み登って村を見渡すには丁度良い木もある。

俺はよくここに来てその木に登り一日中いる事もある。

悠唄は頭に沢山葉をくっ付けながらありがとうと言う。

俺は笑いながら頭についた葉を払ってやる。
女に対してこんなに優しくしてやったのは初めてだ。

正直言うと俺はこの歳にしてすでに女の遊びに講じている。

女はただの欲を吐く場所。
しかもありがたいことに俺の顔はどうやら美丈夫と言う部類に入るらしく、女に困った事はない。

少し微笑めば女はみな頬を赤くし俺に擦り寄る。
人妻もお手の物だ。

こいつは例外らしいが。

にしても、こいつには他の女と違う所が他にもある。
ずっと気になっていたがこいつは一切笑わねぇ。

今まで話していて一度もニコリともしない。
他の女とは絶対的に何かが違う。

「んで、ここで何すんだ?」

「笛の練習」

悠唄の返答に不覚にも俺は目を輝かせてしまった。
笛っ⁉︎と反応する俺を不思議そうに見る悠唄。

勿論表情は全く変わらないが、、
しかし表情が変わらない分瞳がその感情を分かりやすく伝える。

目は口ほどに物を言う、とはこのことか

「なぁ、聴いてっても良いか?」

「いいよ」

悠唄は嫌な顔一つせず了承する。

〜♪

綺麗な音色が静かな森に響く。
俺は目を瞑るとゆっくりと澄んだ空気を吸い込む。

落ち着く音色に心が浄化されるようだった。

薄っすらと閉じた目を開け悠唄を盗み見る。
目を閉じ気持ちよさそうに笛を吹く悠唄はその音色に劣らず綺麗で俺は不覚にもドキッと胸が高鳴った。

木々の隙間を抜けて吹く風がいつもより心地良い。
美しい音色は辺りの景色を綺麗に彩る。

〜♪ーーーー〜ッ。

音が止まる。
俺はゆっくりと目を開け悠唄を見る。

「毎日、ここに来るか?」

「うん。休みでも練習しなきゃいけないから」

「そうか、なら俺もきていいか?」

「うん」

了承の返事に俺は心踊る。
純粋に笛の音が聞きたかったのもあるが俺はどこか悠唄に興味が湧いてきていた。

今までとは明らかに違う女。まだ、そんな認識しか無かったが。

それから俺らは少し話をした。
悠唄の事を色々と聞いた。

初めに公演していたのはこの村でお世話になると言う挨拶の意を込めてだったとか、

この村にした理由は町人がみな親切でおじさんが気に入ったからとか、

あとは寝泊まりしている場所はあの小屋の近くだとか

そして次の日から、俺と悠唄の奇妙な関係が始まったのだった。