豊玉恋物語


あの小屋にちんどん屋の演奏を観に行った日から俺はあの女の声と笛の音色が頭から離れずにいた。

また会えないかと思っていたが、そういう時に限って薬売りの仕事がどんどんと来やがる。

あれからもう一週間も経っちまった。
早く行かねぇと、、

「歳三!これを小松さんの所へ届けてくれないか」

小松さんの家!
丁度あの川を渡るじゃあねぇか。

俺は綻ぶ顔を押し殺してめんどくさそうにあぁ、と返事を残し軽い足取りで小松さんの所へ行く。

焦る気持ちを抑え小川に向かう。
勿論先に薬は届けた。

小屋があるはずのほとりに行くため少し斜めになっている川岸に降りると小川に沿って足を進める。

いなかったら、、そんな考えを頭を振って消し去る。

「お?……あいつはっ⁉︎」

川岸にふと目をやった時あの日見た女とそっくりのやつが立っているのが目に入った。

思わず駆け出した俺は、近くに寄ると息を整る。
声をかけようとした時そいつがクルリと首をこっちに向けた。

「うおっ!」

突然の事で思わず声が出る。

「…あ、お客さん」

白い肌に大きな目そして小さな唇。
そこから紡がれる声は透き通るようだった。

その口から発せられた言葉にまた俺は驚いた。

まさかっ、見られてたのか⁉︎
あんなに人がいたのに覚えていられるもんか?

いや待て、よく考えたらこいつは芸者で今も芸者だ。
名を知らない人を客と思うのは自然な事か…

ごちゃごちゃと考えてまた頭がこんがらがってきた。
聞くしかねぇ。

俺は又しても意を決して口を開く。

「お、俺の事知ってるのか?」

大きな瞳がうるうるとこちらを見ている。

「知ってるよ。一週間前に小屋の一番後ろで立って見てた。」

「っ⁉︎」

こいつ、本当に覚えてやがった!
俺は嬉しさと照れで一杯になる。

「そうか、、お前、名前なんて言うんだ?

俺は土方歳三。」

「歳三?……私は悠唄。」

「ゆう、か。

なぁ、お前いつまでこの村にいるんだ?」

「一年」

俺は明日出発する、とかそう言う言葉を予想してたもんだから悠唄の返答に心底驚いた。

「一年⁉︎」

「うん。今年はお休みの年なの。
今まで一ヶ月おきに色んな国を回ってたけどおじさんがちょっと疲れたからって」

「へぇ。」

俺は冷静そうに返答していたが気を抜くとにやけそうだった。

「なぁ、悠唄。お前何歳だ?」

「15歳」

「15かぁ、俺は18。」

俺と同じくらいかと思ったらだいぶ年下じゃねぇか。
それなのにちんどん屋で働いて、日本中を旅してるのか、、

「ねぇ、歳三はここの村の人?」

「あぁ」

「そうなんだ、、ならどこか人があまりいない静かな場所とか知らない?」

そう尋ねられて俺は一つ丁度いい場所を思いついた。
大人は絶対に来れない静かな場所だ。

「知ってるぜ、良いところ」

でもなんで?てか、良いのか?出歩いて。

疑問がフツフツと浮かんで来る。

「ほんと?そこ教えてもらってもいい?」

「え、あぁ良いけど、、いいのか?勝手に出歩いて」

「平気。おじさんに外で笛の練習してくるって言ってあるから、」

そうか、と俺は納得すると悠唄について来いと促し、その場所へと向かう。