「お先に失礼します。」
そう言って、晴は事務所から飛び出して行った。すぐに、軽いエンジン音が聞こえて来た。
原チャで、スタンドを出て行く晴の姿を、ガラス越しに見送った。
「なんだ、あいつ。随分、古いの乗ってんなぁ。」
「そりゃそうだ。あれ、俺が乗ってたやつだからな。」
「て、店長が?何十年前のやつっすか。」
思い切り頭を小突かれた。
「ってぇ・・・。」
そんな僕を横目で見ながら、ボソッと口を開いた。
「俺は、そんな年くってねえぞ。」
「え、何か言いました?」
ごまかすように、話題をすり替えた。
「あいつも、お前と同じで色々あるんだよ。今日だって、これから学校だしな。」
「学校?」
宙は、晴もサボりだと勝手に思っていた。だから、驚きと申し訳なさが入り交じった表情をした。
「学校終わって、確か、もう一つ仕事してるんじゃなかったかな。まぁ、詳しい事は言わねぇけど、とにかく大変なんだわ。だから、ちょっとヘマ多いけど、見守ってやってくれや。あの原チャだって、そんな健気なあいつだからこそ、くれてやったんだぜ。」
だったら、もう少しいいのをやればいいのに。そう思ったが、さすがにそれは言えなかった。
「店長、太っ腹っすね。」
「そっか。」
宙の言葉は素直に受け取られ、店長は照れ笑いを浮かべていた。