薄暗い工場街に、店長と宙は来ていた。
「まだすか?」
五分毎に、そんな風に確認した。もう、返事をするのが面倒くさくなってきた頃、ふたりは小さな工場の前に着いた。周りの工場はとっくに終わった様子で、辺りはその工場を除いて静かなものだった。
大きなシャッターの横にある扉が、錆び付いた音を立てて開いた。
「おう。着いたか。」
「悪ぃな。遅くなって。」
「いいって事よ。貧乏暇なしってな。」
店長と同い年くらいの男は、宙にとってはじめて見る顔だった。その事を忘れて、店長が事務所に入ろうとした時、工場から出てきた男が訪ねた。
「そいつが、お客さんかい?」
「あぁ、お前とははじめて会うんだったな。宙って言うんだ。うちのバイトの中じゃ、そこそこ使える方だ。」
「まぁ、お前の所は、店長からして使えないからな。その中で使えるって言っても、たかが知れてるか。」
笑い声が、静かな工場街を台無しにした。
「あ、どうも・・・。」
その笑い声に、かき消されるくらいに小さな声で、宙は男に挨拶した。
「ん?おいおい、こいつ大丈夫かぁ?」
続け様に馬鹿にされ、宙は少しムッとした。
「そんな事より見せてもらいたいんですけど。」
さっきよりかなり大きな声で、顔つきも凛々しく男に詰め寄った。