「すみません。」
スタンドに着いた時、宙の耳にそんな声が届いて来た。その声の方を見ると、晴が必死に謝っている姿が見えた。
―――また、なんかやったのか?てか、店長は?
事務所の方に小走りで行く間、様子を伺ってみたが店長が出て来ない。それに気がつくと、慌てて晴の元に駆け寄った。
「どうした?」
宙の姿を見た客は、明らかに宙の事を不審に思っていた。それに気がついた宙は、晴の被っていた帽子をぶんどった。
「あ、すみません。俺はこいつの先輩です。こいつが、何かしましたか?」
宙なりの敬語で、頭を下げた。
それでも、宙が怪しい格好である事は変わらなかった。学生服に、スタンドの帽子。それは誰もが、そう思う格好だ。
それでも、晴より話が通じると思ったのだろう。宙に話始めた。
「あんたが、こいつの先輩か。」
まず、そんな言葉をぶつけ、宙を品定めでもするかのように、上から下、そして上と見た。
―――なんだ。このオッさん。ムカつくわぁ。
内心そう思いながらも、バイトが長い宙は、その事を表情に出さないようにして対応した。
「はい。で、こいつが何かしましたか?」
「俺はね、レギュラー満タンって言ったんだよ。それが、やけに高い金額言われるなって思ったら、これだ。」
宙の目の前に、伝票が突き付けられた。
そこには、ハッキリと書いてあった。
“ハイオク”。
横目で、晴を見た。まるで子犬のように、助けを求めている目だ。軽く深呼吸してから、宙は深々と頭を下げた。それに合わせて、晴も同じように頭を下げた。
「すいませんでした。今回のお代は結構ですから、こいつを許してやって下さい。」
“お代は結構”。この言葉を待っていたかのように、客は笑顔になり、スタンドを出て行った。