しかし。

えてして悲劇の主人公は、見えかけていた希望を遠ざけられるものだ。

大抵は、より大きな絶望によって。

見えてきた下水道の出口。

知らず駆け足になって、そこまで辿り着いたアレックス達が見たものは。

「っ……」

目も眩むような高さの滝壺だった。

飛び降りるには、あまりにも高すぎる。

それは、懸命にここまで脱出してきたアレックス達の心を折るには十分な光景だった。

そしてそれだけに留まらず。

「…っ!」

アレックス達が通ってきた通路の奥から、重く大きな足音が近づいてきた。

それは、紛れもなく追っ手。

この病院の秘密を知った脱走者を始末するべく追跡してきた追っ手だった。

禿げ上がった頭、青白い肌、表情のない顔、彫刻のような肉体は一糸纏っていない。

明らかに別人のものと思われる腕や足が継ぎ接ぎのように移植された、2メートルを優に超える巨人。

優秀と思われるパーツだけを繋ぎ合わせた、最早人間とは呼べぬ寄せ集めの肉人形だった。