「で」

アレックスは出版社の男がテーブルに置いた紙を手に取る。

パソコンに届いたメールをプリントアウトしたものだった。

匿名の人物から届いたそのメールによると、ある企業が慈善事業として運営している大病院で、非人道的な手段を用いて莫大な利益を得ているという。

「この病院ってのは?」

「アメリカフロリダ州の丘にある病院施設だ。 洋館のような趣きとは裏腹に電子ロックなどの先進的な設備を備えている広大な施設だって話だが」

アレックスの質問に、男はコーヒーを啜りながら答えた。

「何ていうか、ヤバいらしい」

「そんなのいつもじゃないか」

アレックスは笑った。

大規模な暴動の真っ只中、黒人差別が発端の警官隊とデモ隊の衝突の中心部。

アレックスが取材するのは、いつだって身の危険を肌でヒシヒシと感じるような『ヤバい』場所だった。