「シエラといったな。この病院はどうなってる?」

「こっちが訊きたいわ」

アレックスの問いかけに、シエラはお手上げのジェスチャーを見せる。

「『入院』させられた時は白衣にマスクを付けた顔の見えない男達に強引に連れ去られたし、ここに入れられて以降は、貴方が運び込まれるまで人と会っていないもの。どういう素性の病院なのか知らないわ」

自分より長くここにいるのだ。

少しくらいは情報を持っているかと思っていたが、ずっと監禁されているのでは無理もないか。

やはりジャーナリストらしく、情報は自分の目と耳で手に入れるしかないらしい。

アレックスはシエラの顔をまじまじと見る。

「何?」

「それ…その髪に付けているヘアピン、貰っていいか」

「え、ええ。いいけど」

ヘアピンを外してアレックスに渡すシエラ。

アレックスは太い指で、そのヘアピンを器用に曲げ伸ばしする。

そして形を変えたヘアピンを、ドアの鍵穴へ。

即席のピッキングツールだった。