サドゥーン地区と本部の間には、チグリス川が流れていた。

これを越えない事には話にならない。

(ジュムリヤ橋だ)

アレックスの足は直近の橋へ向かって駆けていた。

ダッシュして橋の袂に。

だが一足遅かった。

橋は二台の装甲車で車両規制されていて、手前には有刺鉄線で規制線が張り巡らされつつあり、その外側には野次馬が群がっていた。

規制線のすぐ後ろでは、人垣を牽制するようにM16アサルトライフルを手にした数人の兵士が立っていた。

浅い褐色の肌、肩にはフィリピン国旗の記章。

フィリピン軍の兵士だ。

その中の一人に、首から下げたプレスパスを見せながら訊いてみる。

「爆弾テロか?」

「そうだ」

フィリピン兵は野次馬に鋭い視線を残しながら、小さく頷いた。

「爆発の場所は?」

「アメリカ駐留軍本部のほぼ正面だ」