野太く短い地響きと共に、バグダッドの下町サドゥーン地区にある安宿の、コンクリート造りの建物全体が大きく縦揺れして、アレックスの体はベッドの上で数センチほど跳ね飛んだ。

お陰で一発で目を覚ます。

時間は朝8時。

(交通事故か?)

アレックスは瞬時にそう思った。

宿の建物にダンプカーでも突っ込んだか。

それ程ダイレクトで強烈な揺れだった。

すぐさま窓から首を出して外を見るも、ひしゃげたダンプカーと、瓦礫と化したコンクリート壁は何処にも存在しない。

見える範囲に、その形跡はない。

場所がバグダッドである事を考えれば、もっと気の利いた想像も出来た筈なのに。

油断していたアレックスのミスだ。

すっかり目も覚めたので、取材に出る事にした。

朝飯代わりに買い置きのビスケットを数枚ミネラルウォーターで流し込み、歯を磨いて身支度をした。

のんびり腹ごしらえなどしている場合ではないというのに。