俯く私の微かな声をも拾おうとしているのだろうか。彼が今一歩、私に近づいたのが分かった。
また、跳ね上がる鼓動。
「な、にもしてない……」
必死で平静を装ってみても、心臓は速く脈打つばかり。
そんなのお構いなし、いいや、そんな私の気も知らないで私の腕を離してくれない。
「じゃあ、何で泣いてんの?」
「……」
理由を聞かれて、どう答えろと言うのだろうか。些細な事なのに泣いてしまう私はとてもウザったい。
今でも何も言わない私は、心底ウザったい筈だ。これ以上は……
「本当に何もないから、だいじょ……」
大丈夫。そう言いかけて、大丈夫とすら言えない事に気づいた私は、グッと唇を噛んだ。
大丈夫と言って笑いもできない所まで来ている。
やはり私は彼の特別でありたい。

