でも、いいんだ。
詩織や、あのお調子者の康太ですら悩んでいた。
だけど、みんな、自分はひとりしかいない。
私は私でしかない。
けどそれでいいんだ。
違う誰かに生まれていたら、詩織にも、康太にも、そして樹にだって、会えていなかったのだから。
私は目を細め、更に笑う。
同時に、笑顔で盛り上がった頬に、溢れ出た涙が伝った。
するとふいに、唇から想いが溢れかえった。
「こんな意気地無しの私を、誘ってくれてありがとうっ……」
口にしたら最後、一生懸命浮かべた笑顔は崩れさる。
喉からひねり出されたのは、掠れきった涙声。
そんな私を茶化すように、風が吹き抜ける。
べちゃべちゃに濡れた頬に風がさして、ひやっと冷たくなる。


