康太の手から、彼女の手へ古びた手紙が渡る。
「明日香に全部許してもらえるなんて思ってない。でも、今日言わなきゃ一生言えないって思ったの。だから、後夜祭の奇跡に、私はすがったの」
掠れても、震えても、鈴みたいなあの声ががむしゃらに、私だけのために降り注ぐ。
彼女は腕をいっぱいに伸ばして、私の胸の前にあの手紙を差し出している。
よれてくたびれた封筒。
バランスが滅茶苦茶の下手くそな字。
だけど、その<いつきへ>という字は、堂々と大きく居座っている。
何年も前の幼くて、今よりちゃんと正直だった私がこの封筒の中に詰まっている。
「ごめんね。今更なのわかってる。でもお願い。樹に、伝えてあげてほしい」
ひとりの大切な幼馴染の、詩織の瞳が、力いっぱい煌めいた。
私は結んでいた唇を震わせた。