私はどうしようもないピエロだ。
優しい言葉もかけられず、カバンから樹の好きなサイダーを出して投げつけるので精いっぱい。
キャッチした樹は、笑っていたけれど、私から静かに目を逸らしていた。
こんなかわいげのない女なのだから当たり前だ。
でも、私は詩織にはなれないのだ。
詩織は小さな背中すら可愛くて、勇気を振りしぼるように拳をぎゅっと握り、樹だけを見ていた。
「いっちゃんの、たくさんたくさん努力してきたとこみんな見てきたから。絶対絶対大丈夫だから。いっちゃんらしく、楽しく頑張ってきて」
「ありがとうな、しい。そうだよな。楽しんでくる」
頬をほのかに染める女の子の頭を、武骨な手がそっと撫でていた。
向き合うふたりを包み込んでいた夕暮れの煌めく金色の光。


