マシェリ

「なかなか、やるな……」


公園に着くなり、息を切らした咲がそう呟く。


「ほら、あたし長距離得意だからね」


ピースサインを咲に向ければ「そうだった、ハンデなんていらねぇじゃん」なんて肩を落としながら息を切らしている。


そんなに体力なかったっけ?なんて思いながらも、なかなか回復しない咲をからかっていた。


「時間、なくなるな!」


そう言いながら、ボールを取り出し、ゴールの方へと近づいていく咲。


今度はあたしが2人分の荷物を抱えると、ボールをつきながら走り出していく咲を追いかけた。


「よしっ!!ロングシュートだ」


そう言いながら、去年より少しゴールから離れると、ふぅ~と大きなため息を吐き出す。


「んっ?」


振り返ったと思えば、真剣な表情で……


「1本勝負、これで俺が一発でゴール決めたら、俺とナツキは結婚する」

「えっ?」

「な、いいだろ?」

「えっ?」


突然、何を言ったかと思えば、あたしは笑ってみせた。


「冗談だと思ってるだろ?俺、マジだぜ?」


それは顔を見れば分かるよ、と返答しようとも思ったが、そんな空気じゃないほど、咲は真剣にあたしを見つめてる。


「え、いきなり、どうしたの?」

「いいの?それともやめる?」

「ううん、いいの!!咲がいい!!」


「よし、そしたら5回目の記念日が過ぎて、18歳の俺の誕生日、12月25日クリスマスに籍をいれよう」


そう、クリスマス……それは咲が生まれた日。


「うんっ!!!」


その瞬間、咲はゴールの方を向き、静かに目を閉じた。


ゴールを見つめながら集中している咲を見ると、あたしは、去年と同じように、ゴールにボールが入ることだけを願い、大きく深呼吸をした。


「よし」


そう小さく咲が言い放つと、ボールを2回ポポンと公園のコートに打ち付ける。


その瞬間、咲の手からはボールが放れ、それはゴールへと引き付けられた。