先輩と明姫奈が出て行ってしまった後も、

私はしばらくその場に立ったままでいた。



うん。

がんばるよ、明姫奈。





「なに突っ立ってるんだよ、蓮?」



訝しむ蒼に、私はゆっくりと顔を向けた。



「なんか、胸がすっとしたんだ」


「?」


「ねぇ…蒼…。
私、」



軽く息を吸って吐いて、私は蒼を見上げた。



「この一週間、いろんなことが起きて…びっくりして戸惑うことばかりだった。
幼なじみって思っていた蒼が急に変わって…ドキドキしたり、悩んだり、怒ったり…
初めてのことばっかりで、次から次に感じる感情が初めてで、自分がどうなってしまうのかわからなくて、不安だった…。
だからね、言うのが怖かったの…」


「蓮…」


「頭では解かっていたけど、言葉にして認めてしまえばもう後戻りできなくなると思って…
大きな気持ちに押し潰されてしまう気がして、怖かったの。

でも…明姫奈と堺先輩を見て、学んだから…。
私も押し潰されない、って勇気が湧いたから…。
だから言うね。
私…私…」



けど、声は震えてしまう。



今まさに私は、扉を押し開けているところだから。



これから入る新しい世界がどんなものか、期待と緊張で胸が張り裂けそうだから。



「蓮」



そんな私を守るように、蒼が優しく抱き締めてくれた。