「俺…おまえのこと好き過ぎて、不安になってたんだ。
遠距離になったら、他のヤツにおまえを盗られるかもしれない、って。
怖くて、不安で…だから『おまえに好きな奴ができても俺は怒らない』とか、そんなヘタレたこと言って自分の感情から逃げてたんだ。

意気地なしで、ごめんな」





意気地なし。





その言葉は、私の胸にすっぽりとおさまった。



意気地なし。

それは私も同じ。



蒼を好きになって、私すっかり変わってしまった。

嫉妬したり不安になったりイラついたり…。

苦しくて汚くて苦々しい嫌な気持ちを感じるようになってしまった。



だから、『好き』って言ってしまえば、

口に出して認めてしまえば、

もっと『好き』って気持ち大きくなって、その分嫌な気持ちも多く感じてしまうような気がして、怖かったの…。





堺先輩は明姫奈を強く抱きしめて言った。



「好きだ明菜。
マジでこんなに人を好きになったことない。
だから、ずっと好きでいて欲しい。
俺も、ずっとおまえだけを想っているから」





わぁああんと、明姫奈は子どものように堺先輩の胸で泣きじゃくった。



もうそれはきっと、悲しい涙ではなかった。



堺先輩の揺るぎない気持ちを感じて、心の底から安堵した、幸せの涙だ。