岳緒は思いのほか平然とした顔をしていた。



「やっぱな、そーいうことかよ」



「岳緒…知ってたのか…!」





ばしっ!!





俺は思いっきり岳緒の頬を殴った。



「くっだらねぇことしてんじゃねぇよ!」


「ってぇな!
くだらねぇとはなんだよっ!
蒼こそ、なんで早く言わねぇんだよ!
ヘタレてんじゃねぇぞ!」



くっ…。

その通りだから、なにも言えない。



「…悪かったよ…。
けど、蓮が内緒にしてくれって言ったんだ。
あいつはああ見えて、すごく初心なんだよ、ガキなんだよ…。
忍耐強く、待ってやらなきゃダメだったんだ…。だから…」



『まじかよ』と岳緒はばつが悪そうに眉間にしわを寄せた。



「俺は…ふっきりたかったんだよ…。
俺頭悪くて諦め悪いから、はっきり振られて白黒つけたかったんだよ」



けど、と続けると、岳緒は俺が殴った頬をさすった。



「こっちの方が、すっきりしたよ…」


「……」


「人のものに手付けようとするなんて、野暮なことした。
悪かった…」



岳緒は顎で蓮が走った方をさした。



「蓮さん追いかけなくていいのか?
真っ赤になって泣きそうだったぞ」


「解かってるよ」



蓮のやつ、まためそめそ泣いてるだろうな…。

最後に俺と目が合った時の蓮、



『ごめんなさい』



って今にもすがりつきたそうだったもんな…。



これだからお子様は困る。



けど、そこもたまんなく可愛いから、仕方ない。

惚れた弱みだ。



ふぅと吐息すると俺は岳緒に指差して言い放った。



「これで別れたらおまえのせいだからな。
明日絶対蓮に謝れよ、バカ岳緒!」



岳緒の返事は聞かず、俺は蓮を追いかけて行った。