「あいつのことはずっと気がかりだったんだけど、
でも今日会ったら元気そうだったから安心した。
カレシもいるって、やたら自慢してたし。
しかも俺が全然かなわない、バスケのちょー上手いヤツな。

…ま、これで俺も気兼ねなく本当の恋に打ち込んでいいのかなって」



と蒼はしがらみから解放されたように、ほぅと息をつくと、

まだ濡れている私の頬をぬぐって、手を差しのべてくれた。



「もう大丈夫そうみたいだな」



言われた通り、私の胸からは苛立ちや不安といった嫌な気持ちが、すっかり消え去っていた。



その代わりに、



なんとも言えない苦々しい想いが、胸を痺れさせていたけれども。





「いこっか」



その手にそっと手を重ねると、ぎゅっと握られる。

強く強く。



その強さを感じて、私は心底自分が大馬鹿だと思った。



ごめんね、アカネさん。



ごめんね、蒼。



新たに芽生えた後悔と嫌悪を押し隠すように、ぎゅっと強く、蒼の手を握り返した。





その後、

『アカネたちはまだ中にいるだろうし気不味いだろ』っていうことで、蒼はそのまま家に帰ってくれた。



テレビでちょうどコメディ映画をやるってことを思い出して、帰りにコンビニでお菓子を買って、

家に帰って観て、レンタル屋さんでの嫌な気持ちを忘れるよう笑いまくって、



そして、私と蒼は、もうずっと昔からしていたみたいに、いっぱいいっぱい、キスをした。





ねぇ、蒼…。



私ね…、蒼を好きになってから、新しい自分、新しい気持ちを見つけてばかりいるの…。



今、私は胸に大きな気持ちを抱えていて、どう扱えばいいのか、困りきっている…。





『好き』

っていう、とても不思議な、大きな気持ち。






今は胸の中に収めているけれども、いざ口に出して解放した時、

この不思議な気持ちは、この先私にどんな新しい気持ちや未来を与えるんだろう…。





不安…だよ…。





蒼…ごめん、待ってね…。



好きだよ、って…ちゃんと伝えるから…。



蒼が誰よりも何よりも大好きだよ、って伝えたい…。



だから、私にもう少しの勇気が湧きあがるまで、もう少し待っていて…。