「でもでもー『カノジョになってくれる?』って言葉にはちゃんと『うん』って言ったんだよ!?」


「うなづくだけじゃだめでしょ!
肝心な自分の気持ちを、ちゃんと自分の言葉で伝えなきゃ!

はー…。
憐れだな…蒼くん…。
やっと想いを遂げられたとはいえ、苦労は続きそうだ」



『いい?蓮』と大人びた口調になって、明姫奈は続けた。



「『好き』って言葉は大切だよ。
これだけは絶対に口にして直接伝えなきゃだめ。
どんなに恥ずかしくても」


「んんん…」


「そんなしまりのない返事もダメっ。
蓮は、蒼くんに『好き』って言ってもらえて嬉しいんでしょ?」


「…うん」


「だったら蓮も伝えてあげなくちゃ。
蒼くんのこと、好きなんでしょ」


「うん…」





ってうなずいた途端、頭の中に朝のいろんな蒼が浮かんだ。



おはよ、ってまず最初に言ってくれた優しい目。



玉子焼きを美味しいって言ってくれた、満面の笑顔。



ぎゅうって抱き締めてくれて、

『絶対大事にする』

って言ってくれた、低い声…。





思い出しただけで、胸がまたドキドキして締め付けられる…。





「好き…。
蒼が好き…」





そっととつぶやいた私に、明姫奈はふんわりと優しい笑顔を浮かべた。



「…『好き』ってさ、たった二文字だし、行動が伴わなきゃちっとも信憑性なんてない言葉だけど…
それでも、恋にはとっても大切な言葉なんだよ…。
だから、絶対に、伝えなきゃだめなんだよ…。
蓮を好きになってくれた、蒼くんのためにも…」





明姫奈…。





そう教えてくれる明姫奈の顔は、少し悲し気で…寂しそうで…。





それだけに、私の胸に深く深く染みこんでいく…。





私、ちゃんと蒼に面と向かって言えるかな…。



言った途端、真っ赤になって倒れる自信があるよ…。



そのくらい恥ずかしいんだよ…。





そのくらい、蒼のこと好きになっちゃったんだよ…。





でも、だから。



伝えなきゃダメなんだよね。





『…俺は、おまえに認められるために努力してきたんだ。
その俺に、ちゃんと報いることしろよ…!』





そうやってぶつかって来てくれた蒼に、私は十分応えることをしていない…。



伝えなきゃ…



『好き』って伝えなきゃ、だめなんだよね…。





「うん…。
私、がんばって伝えるね…」



「うん、応援してるよ、蓮!」



そうやって、恋する女の子同士、ギュって手を握ってくれた明姫奈の顔は、

またいつもの明るいものに戻っていた。