「やり。玉子焼き入れてくれるんだ?
これ好きだよ。
おまえが作ってくれる料理で一番好きかも」


「ほ、ほんと?」



蒼に振り向かずに、私は返事する。



ふんわりと石鹸の香りがする…。



ち、近過ぎるよ…もう。



ドキドキして卵焼きをお皿にうつす手も震えそうになる。





焼きたてに包丁を入れると、ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐった。



「味見したい」


「えー…」


「いいだろ、ちょっとだけ」



もう…いやしいんだから。



「…あっついから、やけどしないでよ」



と、ちょっと端っこ部分をつまみあげると、



「ちがうだろ」


「え、なにが?」


「そんなのカノジョがカレシに食べさせてあげるやり方じゃないだろ」


「…」


「ちゃんと冷ましてから食べさせて、蓮」





絶対狙って言ってるな…



って思わせるその声は…私が弱いあの色っぽい声で…。



甘く締めつけられる苦しさに喘ぐように、



「わかったよ…もう」



言われるがままに応じると、

私はくるりと蒼に向き合って、ふーふーとさますと、そっと口に持っていった。



あむっ、と玉子焼きは大きく開いた口の中に消える。

柔らかい唇が指に当たって、ドキッとなった。



「あーちょーうめっ。
やっぱ蓮の卵焼きが最高だなー」



その綺麗な笑顔に、思わず私は見惚れてしまう。





蒼のこんなに嬉しそうに笑った顔見たの、久しぶりかも。





クールで落ち着いた微笑を浮かべる蒼も悔しいくらいかっこいい、って思っていたけど…。



心の底から嬉しそうに広がる満面の笑顔もまた、キラキラした魅力があって、惹きつけられてしまう。





ああもう…



笑顔くらいで、なにこんなに動揺してるのよ…。





私…どんどん蒼におちていっちゃってるな…。