セイリンが文通の提案をしたその日の午後。

セイリンが執事室で屋敷に届いた手紙をチェックしていた時、ドアがノックされた。


「はい。」


セイリンは立ち上がり、扉を開けた。


「えっ…マーガレット様⁉︎」


セイリンは扉の前に立つマーガレットを見て驚いた。


「セイ、今暇?」


執事が主人の部屋を訪ねることはあっても、主人が執事の部屋を訪ねる事はない。

まして、普段は父親やセイリンから逃げる事を考えているマーガレットが、わざわざ執事室にやってきたのだ。


「どうなさったのですか⁉︎」


セイリンはきっと只事ではないと狼狽えた。


「…大したことでは無いのよ?」


マーガレットは下を向いたまま、身体の後ろに回している両腕をモジモジと動かしている。

その仕草でセイリンは、マーガレットが後ろに何かを隠していると気付いた。


「マーガレット様、何か隠されていますね?何ですか?正直にお見せください。」


セイリンは今までの経験から、彼女がまた屋敷の物品を破損させたのではと勘ぐったのだ。

しかし、セイリンはすぐに愚かな自分を腹立たしく思うことになる。

マーガレットはセイリンの心の内を読んだのか、眉間にシワをよせて両頬をぷっ膨らませた。

そして、キッとセイリンを睨んだ。


「セイのバカ‼︎」


マーガレットは隠し持っていた物をセイリンに投げつけ、その場から走り去った。


「…え…?」


セイリンは、なぜマーガレットが怒ったのかがわからずボー然した。

その時、


「どうした、セイリン。」


立ち尽くしていたセイリンに声がかかった。


「あ…父さん。」


セイリンの父親、クライツが執事室に戻ってきた。

クライツは当主付き執事で、セイリンが見習い執事をしていた時の指導者でもある。


「足元になにか落ちてるぞ?」

「え?」


クライツに言われて初めて、セイリンは自分の足元に落ちている物に気が付いた。

それを見て、セイリンはその場にしゃがみ込みうなだれた。


「……っあー……」


セイリンは足元に落ちていた、マーガレットからの手紙を拾い、「文通」1通目を受け取った。


うなだれる息子を見ながらクライツは、


「子供だからといって甘く見ていると痛い目にあうぞ?対応は冷静にな。」


一部始終を見ていたかのようにセイリンにアドバイスをして、執事室に入っていった。


「…あと2分早く、言って欲しかったよ…。」


セイリンはボソッと言葉をこぼした。

そして大きな溜息をつきながら立ち上がり、手紙を握って執事室に戻った。