今から約60年前。


テンペスト家に待望のお世継ぎがお生まれになりました。

しかし、お生まれになったのは女のお子様。

当時は、お世継ぎは男子のみと古い決めごとがあり、ご当主は落胆されました。

しかも、産後すぐ奥様はご病気になり、テンペスト一族の治療師の施しも甲斐なく、お亡くなりになられました。

テンペスト一族は特殊な為、必要以上の情報が外界に漏れないように、婚姻は一生に一度、離婚も再婚も許されてはいません。

男子のお世継ぎもなく、テンペスト家の存続が危ぶまれるなか、お生まれになったお子様の元気な泣き声だけが屋敷中に響いていました。

ご当主は奥様を亡くされた悲しみと、お世継ぎのことで落胆し、お子様がお生まれになられてから一度も会いには行っていませんでした。

しかし、毎日聞こえてくる我が子の泣き声にいつしか誘われるように、お子様の元へやってきたのです。

ご当主は乳母に教えを請いながら、初めて小さな我が子を抱き上げたのです。

そして、自分の腕のなかで泣く小さな命に触れ、涙を流されました。




「セイリンいるか?」

「はい、旦那様。」


テンペスト家当主ライザに声を掛けられたのは、執事見習いのセイリンだ。


「見よ、この小さな手を。これから先、我が娘はテンペスト家の運命を背負い、過酷な人生を歩むだろう。」


ライザはセイリンを見た。


「セイリン。側でこの小さな娘を支えてはくれないだろうか?」

「私がですか⁉︎」


セイリンはライザからの申し出に、驚きを隠せなかった。


「そうだ。お前は代々我が一族に仕える執事の血筋。今は見習いだか、誰よりも気が利き、頭も良い。」


セイリンは少し頬を染めた。


「本日より、見習い執事ではなく、娘専属の執事に任命する。」


ライザの言葉に、セイリンは身体に電流が走ったように感じた。


「はい!拝命いたします!」


見習い執事の少年セイリンは、この日からマーガレット専属の執事になった。