《現在》


「…なん…ていうか…。そんな事があったなんて…。」


リーの話を聞いたサクマが困惑したような顔をした。


「マーガレット様は、大変辛い日々を乗り越えたのです。」


リーは答えた。


「今の僕たちよりも幼かったんだよね…。おばあ様はやっぱりすごいね。」


リアンははぁーっと息を吐いた。


「ばあさんもすごいけど、それを支えた執事もすごいだろ。ばあさんの事を理解してたからこそ側で支えることができたんだろうなぁ。」


サクマは腕を組んで天井を仰いだ。


「ねぇリー。セイリンってリーじゃないんだよね?」

「私ですか?そうでありたいのは山々なんですが…私はマーガレット様と同世代で、年齢的にも不可能でございますよ。」

「あ、そっか。そうだね。」


リアンは残念というように、もう一度はぁとため息を吐いた。


「どうされましたか?」


リアンの態度をみて、申し訳無さそうにリーが聞いた。


「いや、リーっておばあ様にとって一番の理解者だと思ってたから、リー以外にもそんな人がいたなんてちょっと驚いたんだよ。」


リアンは素直に答えた。

リアンにとってリーは、物心ついた時にはマーガレットの専属執事で、早くに夫を亡くしているマーガレットにとって良き理解者という認識だった。

その2人よりも、絆の強い存在の登場に困惑したのだ。


「そんな…恐れ多いことでございます。私などセイリンの足元にも及びませんよ。マーガレット様の幼き日々の記憶も、セイリンからいただいたもので、実際には私が見てきたものではございません。」


リーは首を横に振って応えた。


「そうかな?俺も、ばあさんが一番信頼していたのはリーに見えてたけどな。」

「だろ?だからなんかびっくりだよ。」


サクマもリアンも、リーの発言を否定するように言った。

その言葉にリーは困って言葉を詰まらせた。


「…彼には及ばずとも…マーガレット様にとって少しでも支えになれていたのなら…光栄な事でございますね…」

「なってたに決まってるよ。で、僕たちの支えにもなってるしね?」

「そうだぞ。」


リーは2人の言葉に胸が熱くなり、その熱が目頭まで届かないように必死で抑えた。


「ありがとうございます。」


リーは頭を下げた。


「ところでリー。おばあ様って失語は治ったけど、結局のところはっきりとした原因ってなんだったの?」


リアンがリーの話で気になっていたことを聞いた。


(結局のところ、何のために薬を飲んでいたのか。)

(飲まないことで声が戻ったのなら、初めから飲む必要が無かったのではないのか。)

(しかし、毎日飲ませていたということは、必ず理由があるのだろう。)

(薬と本当の原因は関係しているのでは…。)


リアンの頭の中には次々と疑問が飛び交っていた。


それが顔に表れていたのか、リーはリアンの考えに気付いた様子だった。


「…本当はいけないのです。それを口に出すのは。」


リーは呟くように言った。


「え?」


リアン、そしてサクマも「何が?」とリーを見た。


「原因です。テンペスト家のトップシークレットです。でも…きっと、マーガレット様はそれもお2人には知っていて欲しいのだと思います。」


トップシークレットという言葉に、2人は身体と表情を強張らせ、驚きと緊張を隠せなかった。


「それでも、お聞きになりますか?」


リーは2人に確認をした。

リアンとサクマは顔を見合わせ、少し間を置いてから頷いた。


「もちろん。教えて、リー。」


リアンは静かに、覚悟を決めて答えた。

その言葉にリーは頷き、話を続けた。