空に星が映える深夜。
セイリンは、テンペスト邸に与えられた自室のバルコニーで、ワイングラスを片手に夜空を見上げていた。
昼の日差しは暖かく過ごしやすい季節だが、夜は少し肌寒い。
しかし、セイリンは考え事をする時はこの静かな空間を選ぶ。
マーガレットに薬を飲ませるか迷ったが、昼間は結局いつも通り内服させた。
記憶が戻るかはわからない。だか、もし思い出した時、マーガレットはどうなるのか…。
しっかりはしているが、まだ10歳の少女だ。
二度も心を壊すようなことになったらと思うと…セイリンは踏み止まった。
何が一番いいのか…。
セイリンは答えを見つけられずにいた。
「…はー…。」
セイリンはため息をついてワインを一口飲み、柵にもたれてもう一度上を見た。
その時…。
「…ん?」
かすかに、上階から何かが聞こえたような気がした。
上はマーガレットの部屋だ。
セイリンはグラスを置いて、スーツの上着の袖に腕を通しながら部屋を出た。
セイリンはマーガレットの部屋の前に着くと、扉にそっと耳を傾けた。
…何も聞こえない。
気のせいだったかと部屋に戻ろうとした時…。
(ドスンッ…)
微かだか音が聞こえた。
セイリンは扉をノックした。
「マーガレット様?」
返事はない。
セイリンがドアノブに手を掛けようとした時…
「…セイ…!」
小さいが、マーガレットがセイリンを呼んだ。
セイリンは部屋に入る断りの言葉を発することなく扉を開けた。
部屋に入ってすぐにマーガレットが休んでいるであろう寝室に向かい、もう一度扉を開けた。
「マーガレット様‼︎」
セイリンはベッドのすぐ横にうずくまっているマーガレットに駆け寄った。
抱き上げたマーガレットは多量の汗をかき、顔面蒼白になっていた。
呼吸は荒く、涙を流している。
(まさか…)
セイリンはマーガレットをベッドに休ませ、タオルで汗を拭いた。
「…っう…セイ…」
マーガレットは何かを訴えるような眼差しでセイリンを見た。
その間も、瞳からはボロボロと涙が流れている。
セイリンはマーガレットの涙を拭い、頭を優しく撫でた。
「今日は私がそばにいますので、お休みください。」
マーガレットはホッとしたようにセイリンを見た。
そして目を閉じて眠りについた。
まるで….あの日のようだ。
セイリンは、眠るマーガレットを見ながら思った。
声が出なくなった日の、ベッドに横たわるマーガレットを思い出した。
セイリンは約束通り、何度もうなされるマーガレットを優しくなだめながら朝を迎えた。

