セイリンは薬草室をノックした。


「失礼致します。」


返事はないが扉を開けて中に入った。

部屋に入ると本棚の前で立ったまま、分厚い本を読んでいる薬草室の長カールがいた。

しかし、本を読む事に夢中で、セイリンが部屋に入った事に気付いていない。


「カール、マーガレット様のお薬をもらいに来ました。」

「んっ?」


セイリンの声にカールが反応した。

肩までの長さの白髪交じりのブロンズの髪、分厚い眼鏡をかけたカールが振り返った。

40歳を少し過ぎた位の年齢の筈だが、見た目はもっと老けて見える。


「やぁ、セイリン。いつ来たの?」

「今ですよ。マーガレット様のお薬をもらいに来たんです。」


いつもだが、カールは一度何かに集中すると周りの音が聞こえなくなるようだ。

だから、ノックの返事がないのもいつも通りなのだ。


「あ、薬ね。できてるよ。」


カールは本を机の上に置いて、調合済みの薬が置いてある棚から薬を出してきた。

のんびりマイペースだが、きちんと仕事はこなす。

治療師のテンペスト家の薬草室を任される実力はあるのだ。


「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」


セイリンは薬を受け取ったが、ふとマーガレットの様子を思い出した。


「あの、カール。質問なんですが…」

「おや?なんだい?」


薬を渡して、また本を読もうとしていたカールがセイリンを見た。


「この薬は、マーガレット様の失語を治すための薬なんですよね?」


セイリンの質問に、カールは一瞬固まったように見えた。


「うーん…。まぁ、間違いではないけどね。僕からは何も言えないんだよ。と、だけ言っておくよ。」


カールの意味深な返事に、セイリンは驚きを隠せなかった。


「何か他の意図があるんですか⁉︎」

「だから言えないんだよ。マーガレット様が何か言ってたのかい?」


正確すぎる的をついてきたカールの言葉に、セイリンは硬直した。

何かある。

マーガレット様が失語してから、治療の為と信じて服用させていた薬が、実は違う効能なのでは…。

マーガレット様は何かに気付いたのでは…。

セイリンの頭の中でグルグルと考えが巡った。

とにかく、一度マーガレット様にも話を聞いてみよう。


「失礼しました。何でもありません。」

「おや、そうかい?」


セイリンは一礼して、薬草室をでた。

その姿を見送ったカールは、小さなため息をついた。


「さぁそろそろかな。どうするのかな?ライザ…」