たった一人の少女にこうも心を乱されているのかと思うと、何だか急に笑えてきた。


「ルカをこの世界においておくならば、問題がいくつかある。」

「そうだな。 山積みだ。」

「……柊 利一(としかず)とその妻小百合(さゆり)、それがルカのご両親の名前だ。」

「っ!? 分かったのか!? ルカの居た世界が……。」


心臓が波打った。

ルカをここに留めておく理由を失った……真っ先に浮かんだ思いは、酷く自分勝手なものだった。


「ルカの着ていた洋服の気配を頼りに探し当てた。 術者はみなぐったりしているよ。」

「そうか……よくやってくれた。」

「俺は友人でもあるが、今は部下でもある。 だから俺は報告する義務がある。 だが、お前にはそんな義務はないだろう?」


ジョシュの言わんとする事は分かった。だが俺の一方的な想いで黙っているなど……そう思うのに、もう一人の俺が耳元で静かに囁いている。知らなければそれはルカにとっては真実なのだと……。


「寂しくなる暇もないくらい愛してやればいい。 お前の事だけしか考えられない様にしてやればいい。」

「……傲慢だな。」

「それが俺たち純血の本質だろ。」

「…………。」


本当にその通りだよ。だが何故だろうな……ルカに対して自己中心的になろうとすると、虚しさが胸に広がる……そして苦しいんだ。