私は急いで顔を洗い、自分の部屋に戻った。

クローゼットの中の洋服を漁りながら、シエルへの気持ちを落ち着かせようと必死だった。

人を好きになったのは初めてで、自分の気持ちをどうコントロールすればいいのか分からなかった。それでもどうにかして気付かれない様にしないと、という気持ちでいっぱいだった。

せっかく親しくなれたのに、気持ちがばれて今のシエルとの関係が崩れるのは嫌。それにシエルは王子様で私はただの人間。その上この世界の人間じゃない。初めから叶わない恋だって分かってるなら、今のまま過ごしていたい。

考え事をしていたらいつの間にか手が止まっていて、慌てて洋服を探した。

あ……これにしよう。

ストレッチのきいたパンツに、少し長めのカッターシャツを合わせた。胸元でリボンを結び、ブーツを履いてシエルの居るダイニングに急いだ。


「ごめん! お待たせ!」


シエルは私を見るなり驚いた顔をした。


「変かな? 着替えた方がいい?」

「いいや、似合ってる。 いつもと雰囲気が違ったから少し驚いた。」


シエルの手が伸びて来て、その手は私の髪の毛を掬い上げ耳に掛けると撫で下りた。その時のシエルの顔が凄く優しくて、目が離せなかった。


「この洋服なら、耳に掛けてる方がいい。 それじゃあ行こうか。」

「……うん。」


シエルは私の手を握ると歩き出した。

初めて繋ぐ手にドキドキした。嬉しいけど、こんな事されたら勘違いしてしまいそうで、少し複雑な気持ちもあった。