「っ……る、か。」


女は唇を震わせながらそう口にした。


「ルカ? それがお前の名前か?」


ルカが小さく頷き、俺は手を離した。傍に居るだけでルカの緊張が伝わってくる。瞳も微かに潤んでいる。


「ただの人間がどうやってここに忍び込んだ?」

「…………。」


ルカは困惑した表情を浮かべた。口を開くも答えようとしない。


「まただんまりか。 俺が優しく聞いてる内に話す事をお勧めするが? 痛い思いをするのは嫌だろう?」


ルカは布団をギュッと握りしめた。その手は酷く震えている。それは俺のせいだと分かりながらも、優しくしてやる事が出来なかった。この顔が俺の古傷を抉り出そうとするからだ。


「よ、よく意味が……分からないんだけど……。」


意味が分からないだと?

振り絞るような声で言われ、それは演技をしている様には見えなかったが、そんな言葉を素直に受け入れられる程俺はイイ奴ではない。


「惚ける気か? 人間に限らずヴァンパイアでも敷地内には簡単に入る事が出来ない様になっている。 だがお前は書斎で意識を失っていた。 俺が納得するだけの理由を言え。」


驚いた顔をしたルカは震えながら後ずさった。