栗毛の青年は学生食堂を出てすぐのところにある一学年の教室棟を走っていた。
廊下を行く一学年の生徒たちは走る彼を見て次々に振り返る。
「どうして二学年の貴族の方がここに!?」
「三位のほうじゃなくて一位のほうだろ!?」
「バカ!その呼び方失礼でしょ!ちゃんとトゥウォーリー様と呼びなさいよ!!」
自分を見て慌てふためいたように言う彼らの言葉は無視してキョロキョロとあたりを見渡す栗毛の青年。
「クソっ。どこ行ったあいつッ.....!」
貴族とは思えない言葉遣いで声を発する。
その声が聞こえたのか、青年がAクラスの前を通り過ぎようとしたとき、そこから白髪でサファイアのような碧い瞳をした男子生徒とグレーの髪の男子生徒が出て来て青年に声をかけた。
「どうした騒々しい。廊下は走るな。お前は学校のルールも守れないのか。」
グレーの髪の男子生徒のその言葉に周囲にいた生徒たちの顔は青ざめた。
それもそのはず。
何せ栗毛の青年は彼らの先輩でそして何より序列一位のトゥウォーリー家の子息であるからだ。
にもかかわらずグレーの髪の男子生徒は青年に無礼な言葉をかけている。
周囲の生徒たちはヒヤヒヤしながら成り行きをみていたが、栗毛の青年はそれを気にする様子もなく、肩で息をしながら琥珀色の瞳の目を大きく開いている。
「.....ルーウェン...」
少し落ち着いてきたところで青年はグレーの髪の生徒に向かってそう呟く。
だが次に言葉を発したのはグレーの髪の彼ではなく、その左側に立っていた白髪の男子生徒だった。
「君がそんなに慌てるなんて...。何かあったの..?」
「アル...。.....信じられないかも知れないが...聞いてくれるか...?」
「聞くよ。君はくだらない嘘をつくような人ではないからね。」
アルと呼ばれた白髪の男子生徒の蒼い瞳を見つめ返し一息吐くと栗毛の青年は喋り出す。
「...いたんだ。あいつが」
「あいつ...?誰のことを言っている?」
“あいつ”としか言わない栗毛の青年にルーウェンと呼ばれたグレーの髪の男子生徒が問い掛ける。
その問いに栗色の青年は意を決したように語り出す。
「五年前。賊に攫われ殺された筈の.......。アル、お前の片割れ...」
その言葉に蒼い瞳の目を見開く男子生徒。
「まさか...!」
「本当なのか...!?」
2人の問いにコクリと首を縦に振る栗毛の青年。
「五年ぶりだし見たのは遠くからで...それも一瞬だった。だが...間違いない。俺があいつの顔を間違えるはずがない。
俺が学食で見たのは間違いなく.....五年前死んだはずの............ソフィだ。」


