髪を乱されたことが不服だったのか少女は膝に埋めていた顔をガバッと勢いよく上げると眉間にしわを寄せ、涙に濡れた碧い瞳を少年へと向けた。

その瞳はしっかりと少年の琥珀色の瞳をとらえている。
しかし少年の目は少女の頬に釘付けになっていた。
少女の左の頬は痛々しいほどに真っ赤に腫れている。よく見ると腕や足にも擦り傷のようなものがある。


それを見た少年は少女と同じ様に眉間にしわを寄せ、目を細めて悲痛な面持ちをする

そしてゆっくりと少女に近づき、横からまるで壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめる。
そんな少年の行動に少女は目を見開いて驚き、思わず声を掛けるが、噛んでしまう。

「フ、フラン……?」

「…………ふっ。なに慌ててるんだよ」

小さく笑う少年の声を聞いて、先ほどと打って変わって少女はしっかりとした声で抗議する。

「からかったの!?酷い!早く放してよ、バカ!」

「……泣き止んだな」

「………!」


先程まで泣いていたため少女の目は腫れているがこのやりとりの間に心身の痛みが頭から抜けていたのか、少女の瞳は潤んでおらず、涙はすっかり枯れていた。


安堵の笑みを浮かべた少年は大きく息を吐きながら少女の肩へ顔を埋める。
少年の栗色の髪が首に触れ、くすぐったそうにする少女だったが、直ぐに少年の異変に気がつく。

「フラン?……何かあったの?」

「………陛下の命令で父さんがブルーデン王国の視察に行くことになったんだ。」

「お父様の命令で…。でも何でブルーデン王国なの?」

少女の肩から顔を上げた少年は少女を抱いていた腕を放し、しかし俯いたまま問に答える。

「近頃、ブルーデン王国が怪しい動きを見せているらしい。だから王命が下った。そして…俺もそこについて行くことになったんだ。」